「行政書士の平均年収はいくら?」
「中小企業診断士は稼げる資格なのか?」
「社労士として独立すると、どれくらいの収入になるのか?」
資格取得を考えるとき、このような「平均年収」が気になる方は多いと思います。
私も以前、士業の年収ランキングを紹介する動画を公開しました。
しかし、独立して活動する士業は会社員とは違い、一つの「事業」です。
同じ資格を持っていても、ほとんど売上がない人もいれば、数千万円、場合によっては1億円を超える売上を上げる事務所もあります。
そこで今回は、行政書士・中小企業診断士・社会保険労務士の3資格について、平均ではなく「収入・売上の分布」に注目してみました。
調べてみると、それぞれの資格の業務特性まで見えてくる興味深い結果になりました。
まず注意したい「平均年収」の見方
最初に注意していただきたいのは、今回紹介する3つの調査を単純比較することはできないということです。
それぞれ調査対象や調査方法が異なり、「年間売上」を聞いているものもあれば、「年収」を聞いているものもあります。
特に個人事業主の場合、「年収」という言葉自体が少し曖昧です。
年間1,000万円を売り上げても、経費が300万円かかれば所得は700万円です。会社員の「年収1,000万円」と、個人事業主の「売上1,000万円」は意味が違います。
そのため今回は、
「どの資格が一番稼げるのか」ではなく、「それぞれどのような分布になっているのか」
という視点で見ていきます。
行政書士は年間売上500万円未満が76.8%
まず行政書士です。
日本行政書士会連合会が実施した「令和5年行政書士実態調査」の結果が、『月刊日本行政』2024年3月号に掲載されています。日本行政書士会連合会は「月刊日本行政」を会報誌として発行し、Web上にもバックナンバーを掲載しています。
この調査で注目したいのが、**年間売上500万円未満が76.8%**を占めていることです。
4人に3人以上がこのゾーンに入ります。
しかも、これは所得ではなく「年間売上」です。
また、「500万円未満」という一つの区分になっているため、その中で100万円未満がどれくらいいるのか、300万円程度がどれくらいいるのかまでは分かりません。
一方で、5,000万円以上、さらには1億円以上を売り上げる事務所も存在します。
つまり行政書士は、
低い売上帯に非常に多くの人がいる一方、一部に非常に大きな事務所が存在する
という分布になっていると考えられます。
中小企業診断士は比較的「山型」の分布
次は中小企業診断士です。
一般社団法人中小企業診断協会は、都道府県協会に所属する会員診断士を対象としたアンケート結果を公開しています。
そのうち年収についてのデータを見ると、「業務全体」の日数が年間100日以上の人を対象としたコンサルタント業務の年収は、次のようになっています。
最も多いのが501~800万円で19.6%。続いて1,001~1,500万円が14.7%、801~1,000万円が13.3%となっています。
また、3,001万円以上を除いて計算した平均は739.3万円です。
累積構成比を見ると500万円以下が約41%、800万円以下で約60%となるため、中央値は501~800万円のゾーンにあります。
行政書士と比較すると、
500~1,500万円程度を中心とした、比較的なだらかな山型の分布
という印象を受けます。
ただし、これはすべての中小企業診断士の年収を示したものではありません。
年間100日以上業務をしている人の「コンサルタント業務の年収」である点には注意が必要です。
社労士は平均と中央値に大きな差
そして、非常に興味深かったのが社会保険労務士です。
全国社会保険労務士会連合会が実施した「2024年度社労士実態調査」は、登録社労士45,401人を対象とし、25,408人から有効回答を得ています。回収率は56.0%と、大規模な調査です。
このうち開業社労士などの事務所売上を見ると、
年間売上の平均は約1,658万円。
ところが、
中央値は550万円。
平均と中央値には約3倍もの開きがあります。
つまり「社労士事務所の平均売上は約1,658万円」と聞いた場合と、「半数の境目は550万円」と聞いた場合では、かなり印象が変わります。
これこそ、平均だけで士業の収入を判断する難しさを表している数字だと思います。
なぜ3つの士業で分布が違うのか?
ここからは統計で証明された話ではなく、私自身が行政書士・中小企業診断士として活動し、社労士の仕事も身近で見てきた経験からの考察です。
3つの士業で分布が違うのは、それぞれの仕事の作り方が違うことも関係しているのではないかと考えています。
行政書士は「単発型」になりやすい
行政書士の仕事には、許認可申請や書類作成など単発の仕事が多くあります。
一つの許可を取れば、その案件はいったん終了します。
そのため、継続的に新しい案件を獲得しなければ売上が安定しにくいという特徴があります。
これが、低い売上帯に多くの行政書士が分布している理由の一つではないかと考えています。
一方で、特定の許認可業務などに特化すると事情が変わります。
業務をある程度定型化できれば、資格者本人がすべての作業をする必要はありません。
スタッフを採用し、定型的な作業を任せることで、事務所として処理できる案件数を増やせます。
そのため、
「なかなか売上が安定しない人が多い一方、仕組みを作った事務所は大規模化できる」
という両極が生まれやすいのではないでしょうか。
中小企業診断士は「本人依存」が強い
中小企業診断士は行政書士とは少し違います。
経営相談、事業計画策定、企業訪問、研修・セミナーなど、資格者本人の知識や経験そのものが商品になる仕事が多くあります。
もちろんスタッフを雇うことはできます。
しかし、スタッフを10人雇えば、自分一人の10倍の経営相談ができるわけではありません。
診断士同士でチームを作ったり、コンサルティング会社として組織化したりすることは可能ですが、「一人の中小企業診断士を中心とした事業」として考えると、本人の稼働時間が売上の上限になりやすいビジネスです。
一方、顧問契約や継続的な支援もあるため、経験や顧客を積み上げることで、一定水準までは売上を伸ばしていきやすい。
この特性が、比較的なだらかな山型の分布につながっているのではないかと考えています。
社労士は「積み上げ」と「組織化」の両方が可能
社労士は、行政書士と中小企業診断士の中間的な特徴を持っているように感じます。
大きな特徴は顧問契約です。
顧問先が20社ある状態から新たに5社獲得し、既存顧客との契約が続けば、翌年は25社になります。
つまり、事業を継続することでストック型に売上を積み上げやすい仕事です。
さらに、社会保険などの手続業務や給与計算といった業務は、スタッフに任せられる部分もあります。
実際、2024年度社労士実態調査では、開業社労士の事務所は1人経営が5割強である一方、平均従業員総数は2.7人とされています。
つまり、
顧問契約で売上を積み上げながら、スタッフを増やして事務所を大きくすることもできる。
これが、低い売上帯にも多くの人がいる一方で、非常に大きな売上を上げる事務所も存在する理由の一つではないかと思います。
平均年収より「どうやって売上を作る資格なのか」を見る
今回、行政書士・中小企業診断士・社労士の収入・売上分布を調べてみて、改めて感じたのは、
資格選びで平均年収だけを見るのは、あまり意味がない
ということです。
重要なのは、その資格を取った人の平均年収だけではありません。
「どんな仕事で売上を作るのか」
「単発型なのか、継続型なのか」
「自分一人で働く仕事なのか、スタッフを雇って組織化できるのか」
「経験を積むことで売上を増やしやすいのか」
こうした資格取得後のビジネスモデルまで考えることが大切です。
行政書士は500万円未満が多いから稼げない、中小企業診断士は山型だから安定して稼げる、社労士は平均1,658万円だから儲かる、という単純な話ではありません。
今回紹介した調査も対象者や数字の定義が異なるため、3資格を直接比較することはできません。
それでも分布を見ることで、平均年収だけを見ていたときには分からなかった、それぞれの士業の特徴が少し見えてくるのではないでしょうか。
これから行政書士・社労士・中小企業診断士などの資格取得や独立を考えている方は、ぜひ「平均年収」だけでなく、資格取得後にどんな事業を作れるのかという視点でも考えてみてください。

