「これから国家資格を取って独立したいけど、AIに仕事を奪われるのでは?」

最近、このような不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

実際、「AIで消える士業ランキング」のような記事を見ると、税理士や行政書士などがAIに代替されやすい職業として紹介されることがあります。

私は中小企業診断士・行政書士として仕事をしていますが、結論から言えば、独立・開業の手段として国家資格を考えているのであれば、AI時代でも十分に選択肢になると考えています。

もちろん、30年後、50年後がどうなっているかは分かりません。

しかし、少なくともこれから10年程度を考えるのであれば、AIを理由に国家資格を諦める必要はないと思っています。

「AIでできる」と「専門家に頼まない」は別の話

AIに代替されやすいと言われる士業の代表例が税理士です。

ただ、税理士の仕事を自動化する流れは、生成AIが登場する以前から始まっています。

私自身、十数年前にfreeeなどのクラウド会計ソフトが登場した際、それまで税理士に依頼していた個人事業の会計や確定申告を自分でするようになりました。

「これなら税理士に頼まなくてもできる」と思ったからです。

ところが、それから10年以上が経過しても、税理士という仕事はなくなっていません。

一定規模以上の会社になれば会計処理も複雑になりますし、何より経営者自身が時間を使って会計や税務をすることが最適とは限りません。

実際、私自身も現在は税理士に依頼しています。

つまり、自分でできるようになることと、専門家への依頼がなくなることは別問題なのです。

行政書士の許認可も同じ

これは行政書士についても同じことが言えます。

例えば、建設業許可の取得方法について調べれば、現在はインターネット上に多くの情報があります。生成AIを使えば、さらに簡単に概要を知ることができるでしょう。

しかし、建設業許可を十数万円で行政書士に依頼できるとして、建設会社の社長が何日もかけて制度を調べ、自分で書類を作成するでしょうか。

もちろん、自分で申請する方もいます。

ただ、一定規模以上の会社であれば、その時間を営業や経営に使い、専門的な手続きは行政書士へ任せた方が合理的な場合も多いでしょう。

許認可のように何度も繰り返すわけではない業務であれば、社内に専門人材を育成するメリットもそれほど大きくありません。

「自分でできる」からといって「自分でやる」とは限らない。

この点は、AI時代の士業を考えるうえで重要だと思います。

士業の価値はAI以前から変化している

一方で、士業の仕事がこれまでとまったく同じ形で残るとは考えていません。

むしろ、士業の価値はAIが登場する以前から変化してきたと思っています。

例えば、私が行政書士として初めて扱う許認可について相談を受けた場合、インターネットで調べたり、役所へ問い合わせたり、必要に応じて勉強会などで情報を得たりしながら対応します。

資格を持っているから、すべての許認可について最初から知っているわけではありません。

では、インターネットがなかった30年ほど前ならどうだったのでしょうか。

おそらく専門書を購入したり、行政書士会の勉強会に参加したり、先輩行政書士に教えてもらったりしながら知識を得ていたのだと思います。

当時は、専門家しかアクセスできない情報が多かった。

つまり、「知っていること」そのものに大きな価値があったわけです。

それがインターネットの普及によって「調べれば分かる」に変わり、生成AIによって「聞けばすぐに教えてくれる」に変わりつつあります。

AIによって突然、士業の価値がなくなったのではありません。

士業の価値がある場所は以前から少しずつ移動しており、生成AIがそのスピードを急激に速めている。

私はそのように捉えています。

手続きや事務作業だけをしたいなら注意が必要

そのため、「国家資格を取って手続きや書類作成の仕事をしたい」という方は、少し注意した方がいいと思います。

定型的な手続きや書類作成は、今後さらに効率化・自動化されていく可能性があります。

一方で、専門家として残る価値はまだまだあります。

例えば税理士であれば、単に制度を知っているだけではなく、

「この会社の場合、どの制度を利用するのが最も良いのか」

を判断して提案することです。

中小企業診断士も同じです。

補助金の事業計画書そのものは、生成AIを使えばかなりの部分まで作れるようになっています。

しかし、事業計画書を作れることと、審査で採択される事業計画を作れることは別次元の話です。

どの補助金を利用するのか、どのような事業で申請するのか、審査では何が評価されるのか。

特に制度が変更された直後などは、実際に支援している専門家だからこそ得られる情報もあります。

これからは「知識を持っている人」ではなく、知識を使って顧客にとって最適な判断ができる人に、士業の価値が移っていくのではないでしょうか。

士業は制度によって仕事が生まれることもある

士業には、一般的なホワイトカラーの仕事とは少し違う特徴もあります。

資格制度そのものが法律や行政制度と結びついていることです。

制度改正によって、「この手続きには専門家の確認が必要」といった仕組みが新たに作られる可能性もあります。

動画では、経営管理ビザの事業計画について、公認会計士や中小企業診断士などの専門家による確認が求められる例を紹介しました。

このように、技術の進歩だけで士業の将来を予測することは難しく、法律や行政制度がどう変化するかという要素もあります。

AIで士業の「格差」はさらに広がる

私がAI時代の士業について特に感じているのは、士業がなくなること以上に、同じ資格を持つ人の格差が広がるのではないかということです。

もともと士業は、同じ資格を持っていても収入差が非常に大きい世界です。

ただ、これまでは優秀な人であっても、自分で調べ、書類を作り、資料をまとめる必要がありました。

本人の時間には限界があるため、仕事量にも限界がありました。

ところがAIを使えば、

  • 情報収集
  • 文章作成
  • 資料作成
  • 事業計画のたたき台作成

などを大幅に効率化できます。

私自身も、AIを活用することで事業計画などの作成時間はかなり短縮されています。

すると、これまで10件しか対応できなかった人が20件、30件と対応できるようになるかもしれません。

結果として、仕事のできる士業に、より多くの仕事が集中する可能性があります。

「AIが士業の仕事を奪う」というより、

AIを使って生産性を高めた同業者が、他の士業の仕事を奪っていく。

そんな時代になる可能性の方が高いのではないかと考えています。

AI時代でも国家資格は独立の有力な選択肢

では、これから国家資格を取って独立・開業するのは遅いのでしょうか。

私はそうは思いません。

特に、ホワイトカラー系の仕事で独立したいのであれば、国家資格は今でも有力な選択肢だと思っています。

AIの影響を受けるのは士業だけではありません。

ITエンジニア、デザイナー、ライター、コンサルタントなど、さまざまなホワイトカラーの仕事がAIによる変化に直面しています。

その中で国家資格には、独占業務や資格制度、行政との関係など、制度的に守られている部分があります。

そのため、少なくとも他のホワイトカラーの仕事と比較した場合、AIによって完全に代替されるスピードは遅いのではないかと考えています。

現場仕事という選択肢もある

一方で、さまざまな業種の経営支援をしていて感じるのは、建設業、製造業、運輸業など、実際に現場で手を動かす仕事の方がAIによる代替には時間がかかるのではないかということです。

そのため、

「独立できるなら仕事の種類にはそれほどこだわらない」

という方であれば、国家資格だけでなく現場系の仕事まで含めて考えてみてもいいと思います。

ただ、

「デスクワークを中心に独立したい」

「専門知識を使って人を支援する仕事がしたい」

という方であれば、国家資格はAI時代でも十分に検討する価値があります。

大切なのは資格取得後の10年間

AI時代でも国家資格は遅くありません。

ただし、「資格を取れば一生安泰」という意味ではありません。

これから10年間、AIを使いながら仕事の生産性を高める。

専門知識を更新する。

営業力や提案力を身につける。

そして、単なる手続きや書類作成ではなく、顧客にとって最適な判断ができる専門家へ変化していく。

結局、一番重要なのはそこだと思います。

AIによって士業の価値がなくなるのではありません。

士業の「価値がある場所」が変わっていく。

これから国家資格を取得して独立・開業を考えている方は、「AIに仕事を奪われるか」だけではなく、「AI時代に自分はどんな専門家になっていくのか」という視点で考えてみてはいかがでしょうか。