今回は、2026年1月に施行予定の「行政書士法改正」が、補助金申請支援の現場にどのような影響を及ぼすのかをテーマにお話しします。私自身が中小企業診断士・行政書士のダブルライセンスとして、日々事業者の支援に関わる中で感じていること、そして支援現場で起きている課題をベースに、制度の動向と今後の対応について整理しました。
この記事では、法改正の概要や行政書士法第19条の意味、それによって懸念される点、そしてそれぞれの立場(診断士・行政書士・事業者・コンサル会社)にとってどのような備えが必要かを、実務目線でわかりやすく解説します。
■ 行政書士法改正の概要とその背景
今回の行政書士法改正では、「官公署に提出する書類を報酬を得て作成する行為」が、より明確に行政書士の独占業務として定義されました。これは、従来からあった規定の明文化・明確化であり、行政書士法第19条が中心となります。
第十九条 行政書士又は行政書士法人でなければ、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類を作成してはならない。
ここで問題となっているのが、「補助金申請における事業計画書」もこの“官公署に提出する書類”に含まれるのではないか、という点です。
実際、補助金は経済産業省や中小企業庁、都道府県などの行政機関が公募するものであり、申請書類は公的な手続きの一部として提出されます。したがって、事業計画書もこの定義に該当するという解釈が有力になっています。
■ 補助金支援の現場で起きているグレーゾーン
補助金申請においては、中小企業診断士や民間コンサル会社が「申請支援」という形で関わってきました。形式上は、申請者本人が作成するという建前になっていますが、実際の支援は大きく2つに分かれます:
- 事業者の考えをもとに、ヒアリングを重ねて一緒に計画書を構成する支援
- 事業者が作成した計画書に対して、添削やアドバイスを行う支援
このうち、1に該当する支援は「書類の作成」に近いと見なされる可能性が高く、今回の法改正によりリスクが高まることが予想されます。
実際、これまでにも補助金申請をめぐる「代理申請」や「丸投げ代行」が問題となり、例えば事業再構築補助金では、事務局が「代理申請はNG」と明言しています。
■ なぜ補助金支援に専門家が必要なのか?
ここで一つ、誤解されがちなのが「補助金の申請は簡単」という認識です。実際には、公募要領は50ページ以上に及び、補助対象経費や加点項目、申請条件などの理解が不可欠です。
さらに、採択されるための事業計画書には以下の要素が求められます:
- 市場分析や競合との差別化
- サプライチェーンへの影響
- 地域経済への波及効果
- 財務的な実現可能性
こうした観点は、経営戦略に関する知識と経験がないと書けないものであり、申請者自身だけで作成するにはハードルが高いのが現実です。
そして、支援者の質が高くなるほど、「専門家がいないと通らない」世界ができあがってしまった。これは、制度設計の複雑さと不正対策のために要件が厳格化され続けたことによる、いわば制度疲労とも言えるかもしれません。
■ 行政書士と診断士、それぞれの限界と可能性
ここで大事な視点は、行政書士と中小企業診断士が得意とする領域の違いです。
- 行政書士:法律知識、許認可手続き、書類作成の正確性
- 中小企業診断士:経営分析、財務・市場戦略、実行可能性の検証
補助金申請は、この両方の力が求められます。だからこそ、行政書士の中には補助金支援に不慣れな方もおり、形式は整っていても“中身の弱い”事業計画書が提出されるケースが少なくありません。
逆に診断士が行う申請支援も、作成行為にあたると見なされるリスクがあり、今後の業務継続に支障が出る可能性があります。
この状況を打破するひとつの方法が、「ダブルライセンス」。行政書士×診断士の資格を両方持つことで、書類の正当性と中身の質を両立させることができます。
■ 立場別に見る今後の対応策
● 中小企業診断士の方へ
補助金支援を主業務とされている方は、行政書士資格の取得を視野に入れることをおすすめします。筆者も8月から勉強を始め、11月の本試験に合格しました。診断士であれば、法律知識のベースがあるため十分対応可能です。
● 民間コンサル会社の方へ
行政書士資格者を採用するだけでは不十分です。企業内行政書士は原則として業務ができず、行政書士法人の設立や外部契約による業務体制の整備が必要です。
● 行政書士の方へ
補助金支援に取り組むには、経営知識の習得が欠かせません。「事業の内容」を理解できる力がないと、審査を通すレベルの計画書作成は困難です。
● 事業者の方へ
これから支援を受けるなら、「行政書士×診断士」のような複合スキルを持つ支援者を探すのがベストです。また、認定支援機関としての登録実績も確認しましょう。